01
こぶし大の筋肉に、ポンプが2つ
こぶしを握ってみてください。心臓は、ちょうどそのくらいの大きさです。長さ約12cm、幅約8cm、厚さ約6cmで、重さは約250〜350gあります。心臓は胸のまん中、胸骨のうしろにあり、左右の肺にはさまれています。少し傾いているので、約3分の2が体の中心線より左にあり、先端の心尖は左下を向いています。健康な心臓は、安静時に1分間に約60〜100回拍動します。フィットネストラッカーを着けた成人9万2000人を調べた研究では、平均は約65回でした。
典型的な例では、心臓は1回の拍動で約70mLの血液を送り出します。安静時には、合わせて1分間に約5Lになります。全身の血液とほぼ同じ量です。つまり血液は、平均すると約1分で体をひと回りします。心臓は1日に約10万回拍動しています。実は心臓は、左右に並んだ2つのポンプでできています。右側は血液を肺へ送ります。血液はそこで酸素を受け取ります。左側は、その血液を全身へ送り出します。
どちらのポンプにも、部屋が2つあります。入ってくる血液を受け止めるのが心房、それを送り出すのが心室です。一方向にしか開かない4つの弁が、血液を前へ前へと進ませます。このモデルは、1分間に75回打つ安静時の心臓の1拍を、ぐっとゆっくり再生しています。いくつか簡略化もしています。酸素の少ない血液は、多くの解剖学の本と同じく青で描いていますが、実際は暗い赤色です。実際の心房は、心室の上というより後ろ側にあります。血管は、心臓から手のひらの幅ほど離れたところで切ってあります。タイムラインをドラッグすると1拍の中を移動でき、モデルをドラッグすると向きを変えられます。
心臓は休まない、と聞いたことがあるかもしれません。実は、心臓は1拍ごとに休んでいます。安静時、心室が縮んでいるのは1拍のうち約5分の2だけです。残りの約5分の3は、筋肉がゆるみ、心臓がまた血液で満ちていく時間です。このゆるんでいる時間を拡張期、縮んでいる時間を収縮期と呼びます。「正常な脈拍」も、人によってさまざまです。先ほどの研究では、安静時の心拍数は1分間に約40回から100回以上まで幅がありました。健康な人どうしでも、ふだんの値が1分間に最大70回も違うことがあったのです。
02
4つの部屋、2つの圧力
ここでは、モデルを体の正面と平行な面で切り開いています。4つの部屋を一度に見せる、教科書でおなじみの断面です。モデルはこちらを向いているので、心臓の右側は画面の左側にきます。全身で酸素を渡し終えた血液は、上大静脈と下大静脈という2本の太い静脈を通って戻ってきます。流れ込む先が右心房です。そこから血液は右心室へ入り、右心室はそれをすぐ近くの肺へ押し出します。これには大きな力はいりません。右心室の圧は、最高でも約25mmHgです。
肺からは、酸素をたっぷり含んだ血液が、4本の肺静脈を通って左心房に戻ってきます。そこから血液は、いちばん力の強い部屋である左心室に入ります。左心室は、脳からつま先まで、全身に血液を押し出さなければなりません。その圧は最高で約120mmHg、右側の約5倍です。そのため壁の厚さは右心室の約3倍あり、ふつうは6〜9mmです。断面を見ると、その差がよくわかります。
筋肉の壁である心室中隔が左右を仕切っているので、酸素の多い血液と少ない血液は混ざりません。左右の心室が送り出す量は同じで、典型的な例では1回の拍動で約70mLです。もし片方がほんの少しでも多く送り続けたら、もう片方の手前で血液が渋滞してしまいます。心室を満たす血液のほとんどは、自然に流れ込みます。心房を通り抜けて、ゆるんだ心室へ流れていくのです。最後に心房が縮んで、もう少しだけ血液を押し込みます。その量は安静時で全体の最大約5分の1、心拍が速いときはもっと多くなります。部屋をタップすると、血液がどこから来てどこへ行くのかがわかります。
左右の心室は、どれだけ送ればいいかをどうやって知るのでしょう。実は、どこからも指示は来ていません。心筋はフランク・スターリングの法則という単純なルールに従っています。心室は、血液がたくさん入るほど強く縮むのです。余分な血液が入ると筋細胞が引き伸ばされ、伸びた細胞はより強い力で縮みます。こうして心室は、その余分を押し出します。入った分だけ出ていく。それが1拍ごとにくり返されます。このルールは、筋肉そのものに備わっています。持久系アスリートは、このしくみを一般の人よりはるかに大きく活かしています。心臓に入る血液が多いぶん、多く送り出せるのです。
03
一方向にだけ開く4つの扉
心房と心室のあいだには、弁尖と呼ばれる薄いひだでできた弁があります。右側は三尖弁で、弁尖は3枚です。左側は僧帽弁で、弁尖は2枚です。心室が縮むと、高まった圧が弁尖を押して閉じます。弁尖のふちは、腱索という細いひもで、心室の壁にある乳頭筋という小さな筋肉につながっています。乳頭筋は心室が縮むあいだに張りつめます。そのため弁尖が、風にあおられた傘のように心房側へめくれ返ることはありません。
出口には、別のタイプの弁があります。肺への出口を守るのが肺動脈弁、全身への出口を守るのが大動脈弁です。どちらにも、小さなポケットのような形の弁尖が3枚あります。血液が勢いよく出ていくあいだ、ポケットは壁にぴったり張りついています。心室がゆるんで血液が逆戻りしかけると、血液がポケットに流れ込みます。するとポケットはぱっと閉じ、中央で合わさります。モデルでは、わかりやすさのために4つの弁を1枚の断面に収めています。実際の心臓では、肺動脈弁はほかの3つより高く、前寄りにあります。
弁そのものには筋肉がありません。後ろの圧が前の圧より高いと開き、逆になると閉じる。それだけです。弁がぱたんと閉じるときに出る音が、心音です。医師が聴診器で聞く、あの「ドッ、クン」です。1つ目の音「ドッ」(第1心音)は、心室が縮み始めるときに僧帽弁と三尖弁が閉じる音です。2つ目の音「クン」(第2心音)は、縮み終わるときに大動脈弁と肺動脈弁が閉じる音です。つまり心音は、筋肉ではなく弁から生まれます。弁をタップすると、カメラがその弁を追いかけ、1拍の動きを見せてくれます。
実は、どちらの音も2つの音が重なってできています。僧帽弁は三尖弁よりほんの一瞬早く閉じますが、この差は短すぎて、聴診器では聞き分けられません。モデルでも、2つの弁が閉じる時点を比べてみましょう。大動脈弁も、肺動脈弁よりほんの少し早く閉じます。このずれを、2つ目の音の分裂と呼びます。ずれの幅は呼吸によって変わり、姿勢を変えるだけでも変わります。健康な大人の心臓が出す音は、この2つだけです。3つ目の音は子どもなら正常ですが、大人では病気のサインであることが少なくありません。
04
1拍の流れを順に追う
このグラフは、1拍のあいだに心臓の左側で起きることを追っています。始まりの時点で、心室はゆるんでいて、すでに血液でほぼ満たされています。心房が縮んで最後のひと押しをし、心室の血液は約120mLになります。次に心室が縮み始めます。僧帽弁が閉じ、ほんの一瞬、4つの弁がすべて閉じた状態になります。血液には行き場がないので、容積は変わらないまま、圧だけが約10mmHgから約80mmHgへ一気に上がります。この段階を等容性収縮と呼びます。容積が等しいまま縮む、という意味です。
心室の圧が約80mmHgで大動脈の圧を上回ると、大動脈弁が開きます。血液は最大で秒速約1mの勢いで大動脈へ流れ出し、圧は約120mmHgで頂点に達します。心室はおよそ4分の1秒で約70mLを送り出し、約50mLはあとに残ります。つまり1回の拍動で出ていくのは半分強、約55〜65%です。この割合を駆出率といいます。グラフの曲線は教科書にある典型的な形で、特定の誰かを測ったものではありません。実際に測定すると、心臓にはこれより多くの血液が入っていることがよくあります。
収縮が弱まると、血液が逆戻りしかけ、大動脈弁がぱたんと閉じます。大動脈の曲線にある小さなくぼみは、このときにできます。圧が下がるあいだ、4つの弁はふたたびすべて閉じています。その時間は0.07秒以下です。心室の圧が心房の圧を下回ると、僧帽弁が開き、血液がはじめは勢いよく、やがてゆっくりと流れ込みます。大動脈には弾力があり、送り込まれるたびにふくらみ、次の拍動までのあいだに縮んで元に戻ります。そのため大動脈の圧は、約80までしか下がりません。この最高値と最低値が、大動脈の血圧です。「上が120、下が80」というわけです。
心筋には、自分専用の血液の通り道があります。心臓の表面を走る冠動脈です。ところが縮んでいる筋肉は、自分の血管を圧迫してしまいます。そのため冠動脈の血液の大部分は、筋肉がゆるんでいる拍動と拍動のあいだに流れます。心拍が速くなると、削られるのはおもにこのゆるんでいる時間です。1分間に75回なら、心臓は1分のうち約33秒をゆるんで過ごします。150回になると、それが約22秒に減ります。つまり心拍数が2倍になると、心臓が自分を養う時間は約3分の1も減るのです。これがいちばん問題になるのは、冠動脈が狭くなっている場合です。
05
拍動のスイッチは心臓の中に
拍動はどれも、脳ではなく心臓そのものから始まります。右心房の壁の上のほうに、特別な細胞が集まった小さな場所があります。それが洞結節です。放っておけば、洞結節は1分間に約100回、信号を出します。ところが迷走神経が一日中ブレーキをかけていて、安静時には60〜80回に抑えています。神経や、アドレナリンのようなホルモンにできるのは、そのペースを上げ下げすることだけです。呼吸でさえ、ペースを変えます。息を吸うたびに迷走神経のブレーキが少しゆるむので、健康な人の脈は、吸うときに少し速くなり、吐くときに少し遅くなります。
洞結節が信号を出すたびに、電気の波が約0.09秒で左右の心房に広がり、心房が縮みます。心電図では、これがP波と呼ばれる小さな山として現れます。その先で波は、信号を通さない硬い線維の輪にぶつかります。通り抜けられる入り口は、ひとつだけです。それが房室結節です。房室結節は電気の通り道の中で信号がいちばんゆっくり進む場所で、速さは秒速約0.05mです。ここで信号は約0.1秒待たされます。そのあいだに心房が血液を出しきり、それから心室が動き始めます。
房室結節を過ぎると、信号はヒス束と、そこから分かれる右脚と左脚を、秒速約2mで駆け下ります。脚は、心室中隔の両側に1本ずつ走っています。そこから扇のように広がるプルキンエ線維が、秒速約4mで信号を心室の内側の壁に行き渡らせます。房室結節の約80倍の速さです。こうして0.1秒足らずのうちに、心室の壁全体に信号が届きます。これが心電図で高くとがって見えるQRS波です。そのあと壁が回復していき、それが心電図にT波として現れます。波をタップすると、その時点に移動します。
移植された心臓を見ると、心臓がどれほど自分の力で動いているかがわかります。移植された心臓には、神経が1本もつながっていません。それでも拍動します。ブレーキ役の迷走神経がないので、安静時の心拍はふつうより速くなります。運動するとやはり速くなりますが、その上がり方はゆっくりです。神経ではなく、血液に乗って届くアドレナリンなどのホルモンに頼っているからです。移植を受けた人の40〜70%では、数か月から数年たつと、一部の神経がまた伸びてきます。心臓には、予備のペースメーカーもあります。洞結節が働かなくなると、房室結節が1分間に約40〜60回のペースで代わりを務めます。
06
2つの循環と、走ると変わること
血液のしずくをひとつ、追いかけてみましょう。右心室は、しずくを肺動脈から肺へ送ります。しずくは肺で酸素を受け取ります。そして肺静脈を通って左側に戻り、左心室が大動脈から全身へ送り出します。そのあと大静脈を通って、右側に帰ってきます。つまり血液の通り道は、肺循環と体循環という2つの循環が一続きにつながったもので、心臓はその両方を同時に動かしているのです。動脈とは、酸素が多いか少ないかに関係なく、心臓から血液を運び出す血管のことです。そのため肺動脈には、酸素の少ない血液が流れています。安静時、しずくは平均して約1分で体をひと回りします。
では、スライダーで運動の強さを上げてみましょう。25歳の人なら、心拍数は1分間に約75回から約190回へと上がっていき、1回に送り出す量も増えます。心拍数に1回の拍出量をかけたものが心拍出量、つまり1分間に送り出す血液の量です。安静時の約5Lから、激しい運動では約20Lまで増えます。収縮の時間は少し短くなるだけですが、血液をためる時間はずっと大きく縮みます。心拍数が2倍になると、収縮の時間は3分の1足らずしか短くならないのに、血液をためる時間は約3分の2も短くなります。グラフの青い部分が縮んでいくのを見てください。
これだけ働くのですから、心臓自身もたくさんのエネルギーを使います。心臓は冠動脈を通して自分にも血液を送っていて、その量は安静時で1分間に約250mL、心臓が送り出す量の約5%です。体が取り込む酸素の約10分の1を、心臓が使っています。ただし、そのポンプの出力は控えめで、左側でも約1Wです。一生のあいだに、心臓は約30億回拍動します。これは哺乳類としては多い数字です。哺乳類では、一生の拍動数はおよそ10億回で、種による差は10倍の範囲に収まります。潜水中のシロナガスクジラの心臓は、1分間にわずか2〜8回しか打ちません。
持久系のトレーニングは、心臓の形を変えます。左心室の内側は広くなり、その幅は男性アスリートで約55mm、トレーニングをしていない人では約48mmです。壁もわずかに厚くなります。このスポーツ心臓は、健康な変化です。1回の拍動で送る血液が増え、安静時の心拍数は1分間に約50回まで下がります。一流の自転車選手では30回近くです。全力なら、1分間に約28Lを送り出せます。最高記録は、1分間に約42L、1回の拍動で約210mLです。それでも、最大心拍数がほかの人より高いわけではありません。ちなみに「220から年齢を引いた数が最大心拍数」という式は、大まかな目安にすぎず、上下に約10回ずれることがあります。アスリートをタップして比べてみましょう。